大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)333号 判決

控訴人・附帯被控訴人 ファースト開発株式会社

右代表者代表取締役 星加正名

右訴訟代理人弁護士 森謙

同 森重一

同 漆原良夫

同 竹内美佐夫

被控訴人・附帯控訴人 学校法人聖マリア学園

右代表者理事 グスタブ・ヴァション

右訴訟代理人弁護士 小木曽茂

同 酒井正之

同 小野雄作

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

被控訴人(附帯控訴人)は控訴人(附帯被控訴人)に対し金八〇〇万円とこれに対する昭和四六年五月二一日以降支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一五分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四  第二項中金員の支払いを命ずる部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人・附帯被控訴人代理人(以下「控訴代理人」という)は、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人は控訴人に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する昭和四六年五月二一日以降支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決並びに仮執行宣言を、附帯控訴事件につき、附帯控訴棄却の判決をそれぞれ求め、従前の第一次的請求を取り下げ、被控訴人・附帯控訴人代理人(以下「被控訴代理人」という)は、控訴事件につき、控訴棄却の判決を求め、右第一次的請求の取下げに同意し、附帯控訴事件につき、「原判決主文第一項を取消す。右取消部分につき附帯被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に加えるほか原判決事実摘示(原判決三枚目―記録五六丁―表二行目から、原判決二一枚目―記録七四丁―裏二行目まで。ただし、原判決五枚目―記録五八丁―表五行目、同裏三行目、原判決六枚目―記録五九丁―表六行目、原判決七枚目―記録六〇丁―表一〇行目、同裏七行目、原判決一三枚目―記録六六丁―表四行目、原判決一四枚目―記録六七丁―裏九行目に、「訪ずれ」とあるのを、それぞれ「訪れ」と改め、原判決六枚目―記録五九丁―表二行目及び原判決一三枚目―記録六六丁―表三行目に「売却方を依頼し」とあるのを「譲渡に応ずるよう要望し」と改める。原判決添付の物件目録を含む。)と同一であるから、これを引用する。

《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求は八〇〇万円とこれに対する昭和四六年五月二一日以降支払いずみまで年六分の割合による金員の支払いを命ずる限度で相当であり、これを超える部分は失当として棄却すべきであるとするものであって、その事実認定及びこれに伴う判断は、次に付加し、改めるほか、原判決理由説示(原判決二二枚目―記録七五丁―表二行目から原判決三六枚目―記録八九丁―裏八行目「棄却することとし」まで。ただし、右「棄却することとし、」を「棄却すべきである。」に、原判決二二枚目―記録七五丁―裏九行目「斡旋する旨」を「斡旋したい旨」に、原判決二二枚目―記録七五丁―裏七行目、原判決二四枚目―記録七七丁―表八行目、同裏一〇行目、原判決二五枚目―記録七八丁―裏二、三行目、原判決二七枚目―記録八〇丁―裏九行目、原判決二八枚目―記録八一丁―表七行目、同裏三行目に「訪ずれ」とあるのをいずれも「訪れ」にそれぞれ改め、原判決二七枚目―記録八〇丁―表初行「文書」の次に「の」とあるのを「を」と改め、同裏九行目に「管財部分」とあるのを「管財部長」と改め、原判決三六枚目―記録八九丁―裏二行目「一次的、二次的」を、「媒介契約に基づく報酬」に、同裏三行目「第三次的」を「商法五一二条に基づく」にそれぞれ改める。)のとおりであるから、その記載を引用する。

1  原判決二二枚目―記録七五丁―表末行「乙第一一ないし第一三号証」の次に、「当審証人白雲竜の供述により真正に成立したと認められる乙第三九、第四〇号証」を加え、同表末行、同裏初行「証人大槻公雄」から同裏二行目「同星加光子(一部)の各証言」までを、「原審証人フランク・ギブニイ、同大槻公雄、同北浦直人、同村瀬光正、同イー・ビー・シーバー、当審証人フェリック・ヴェルウィルゲンの各供述、原審及び当審証人星加光子(各一部)、原審及び当審証人フェルナン・ヴァヴェル(各一部)、原審及び当審(各一部)における控訴人代表者星加正名の各供述」に改める。

2  原判決二三枚目―記録七六丁―表三行目「右媒介は」から五行目までを「学院が移転先用地を取得するにつき、信者として奉仕したい旨を述べ本件土地の案内を申立たので、ヴァヴェル校長は、本件土地の取得につき、信者の奉仕として星加光子の協力が得られるものと理解した。」に改め、原判決二六枚目―記録七九丁―裏九行目「暫時」及び原判決二七枚目―記録八〇丁―裏一〇行目「(右事実中」から、原判決二八枚目―記録八一丁―表初行までを削り、原判決二九枚目―記録八二丁―表四行目に「星加正名、同光子」とあるのを「フランク・ビー・ギブニーが島津こうじを介して調整し、当日星加夫妻も同室に出席し」と改める。

3  原判決三二枚目―記録八五丁―裏八行目「右認定に反する」から、同裏末行までを、「原審及び当審証人フェルナン・ヴァヴェル、同星加光子、当審証人中西輝夫、原審及び当審における控訴人代表者星加正名の各供述中右認定に反する部分は、右認定に供した前顕各証拠に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」に改める。

4  原判決三三枚目―記録八六丁―表初行から、原判決三五枚目―記録八八丁―裏初行までを次のように改める。

「控訴人は、昭和四四年一二月一八日に、控訴人と被控訴人との間で、本件土地の売買につき媒介契約が成立した旨主張するところ、前叙事実関係(さきに原判決理由説示を加削し改めて引用した原判決理由説示中、原判決二二枚目―記録七五丁―裏五行目から、原判決三二枚目―記録八五丁―裏七行目まで。)すなわち、ヴァヴェル校長は、当初、星加光子(以下「光子」という。)の言動により、同人が、カソリック信者として、奉仕の趣旨で仲介を申出ているものと理解していたところ、昭和四四年一月ころに至り、光子の行動が信者としての奉仕活動であることに疑念を抱き、控訴人に宛てて、同年二月二七日付書簡(乙第九号証)で、「何人も被控訴人理事長の委任がなくしては被控訴人を代理して行動することができないこと、被控訴人が控訴人の協力を求めるときは、書面によって権限を付与すること。」を通告し以後控訴人、被控訴人間の交渉は九か月以上途断えている事実、もとより被控訴人から控訴人に対して、本件土地の媒介について何らかの書面により権限を付与したことは認められず、口頭でも、被控訴人理事長によりその旨の権限を付与した事実が認められないこと、本件土地の売買価格は二四億円にも及び、媒介契約が成立したとすればその報酬額は相当多額に達するところ、媒介契約を証するに足りる何らの書面も存在しないことの各事実に照らし、控訴人主張の媒介契約が成立したものとは到底認め難く、控訴人の主張に副う趣旨の、原審及び当審における証人星加光子、控訴人代表者星加正名の供述部分はいずれも採用し難いものというべきである。さすれば、控訴人の右主張事実は、これを認めることができない。」

5  原判決三五枚目―記録八八丁―裏三行目から、原判決三五枚目―記録八九丁―表末行までを次のように改める。

「本件土地につき、被控訴人と株式会社第一銀行との間で売買契約が成立するに至った経緯は、前叙事実関係(原判決理由説示を加削し、改めて引用した原判決二二枚目―記録七五丁―裏五行目から、原判決三二枚目―記録八五丁―裏七行目まで。)のとおりであるところ、右事実関係のもとにおいて、次のとおり判断することができる。

控訴人は、宅地建物取引業を営む株式会社、すなわち商人であるところ、光子がヴァヴェル校長に対し、本件土地を取得するについて仲介を申出た当初において、同校長が、光子の申出は、カソリック信者としての奉仕の趣旨であると理解し、控訴人の営業行為とは理解していなかったものの、遅くとも被控訴人が控訴人に対し、被控訴人理事長の委任なくして被控訴人の代理人として行動することを禁ずる趣旨の書面(乙第九号証)を送付した昭和四四年二月二七日当時においては、光子の本件土地取得のための媒介行為が、控訴人の営業活動としてなされていたものであることを認識していたものということができる。そして、被控訴人は、同年一二月一七日ころ、第一銀行管財部長大槻公雄から、控訴人を介して、被控訴人に本件土地を買受ける意思の有無を打診して来て以後(以下「交渉再開後」という)、光子が、大槻の右打診の内容を被控訴人理事長に取次ぎ、大槻と面談して売買価格について交渉した結果をヴァヴェル校長に報告し、大槻を案内してヴァヴェル校長と面談させ、売買条件について話合うため、被控訴人側と第一銀行側とがなした会合に控訴人代表者星加正名、光子が出席したなどの一連の行為に対して、被控訴人において特にすすんでこれらの行為を依頼したものではないが、光子が被控訴人に対し本件土地の取得について仲介を申出た当初において、被控訴人のためにする趣旨であったことは明らかであり、その後交渉が中断されるまでの間光子が被控訴人のために、第一銀行に対し本件土地を売却する旨の意思決定を促すため行動していた事実に照らし、交渉再開後の行動についても、控訴人が第一銀行の委任を受け、第一銀行のために行動していたなど特段の事情が認められない以上(証拠を通観しても、かかる特段の事情は認められない。)交渉再開後の、控訴人代表者星加正名、星加光子の前叙各行為は被控訴人のためになされたものというべきであり、被控訴人において、控訴人代表者星加正名及び光子の右行為を認識しつつ、これを拒み、或は禁止した事実は認められないから、被控訴人側が昭和四四年二月二七日付前叙書簡を控訴人あてに送付して以来九か月余両者間の交渉が途絶し、第一銀行側の星加光子の地位についての誤解があったとしても、控訴人が客観的に被控訴人のためにする意思をもって仲介行為をなし、被控訴人はこれを知り得べき状態にあったものと推認することができる。以上のとおりであって、控訴人が、控訴人代表者星加正名及び光子によって、本件土地の売買契約成立のためになした前記行為は、控訴人が、客観的に商行為として、被控訴人のためになした行為ということができ、控訴人は、被控訴人に対し、商法五一二条に基づき、相当の報酬を請求し得るものということができる。

そこで、請求し得べき報酬額について検討するに、交渉再開以前の光子の行為については、被控訴人において、商人である控訴人の営業活動としてなされていることの認識がなく、却って信者としての奉仕と理解されていたと認められること前叙のとおりであり、交渉再開前の光子の行為について控訴人は、当然にはその報酬を請求し得るものではないから交渉再開後の行為のみにつき報酬を決するのが相当であり、第一銀行が交渉再開を決し本件土地売却の意思を決定するに至った原因が前叙経過に照らし、光子の働きかけによるものとは認め難いこと、交渉再開後の過程において控訴人のなした行為の内容、成立した売買契約の代金額等証拠に現われた一切の事情を勘案すると、その額は八〇〇万円をもって相当と解すべきである。

二  以上のとおりであって、原判決は八〇〇万円とこれに対する昭和四六年五月二一日以降支払いずみまで年六分の割合による金員の支払いを命ずる限度で相当であり、これを超える部分は失当とすべきである。

よって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却し、附帯控訴に基づいて、同法三八四条、三八六条に従い、原判決を主文第二項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条、九二条を仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部秀信 裁判官 近藤浩武 川上正俊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例